2022.01.07
クラブ
【対談】ITを活用した選手育成。トップアスリートを育てる新たなステージの実現へ

昨年9月に一般社団法人F・マリノススポーツクラブと株式会社インフォメーションクリエーティブは「サステナブルDX推進パートナー」としての契約締結を発表した。トップアスリートを幼少期から育てるスポーツクラブが、どのようにITを活用していくのか。その展望をF・マリノススポーツクラブの宮本功代表理事とインフォメーションクリエーティブの三澤昇平副社長に聞いた。

■トップアスリートの育成にITを活用していきたい

―一般社団法人F・マリノススポーツクラブと株式会社インフォメーションクリエーティブは「サステナブルDX推進パートナー」としての契約締結を発表しました。周囲の方々の反応はいかがですか?

三澤副社長
弊社の場合、このようなパートナー契約は初めてでしたが、学生時代にサッカーをやっていた社員も多く、社内にフットサルチームがあるほどです。なので、サッカーにとても興味があり、社員も非常によろこんでいます。

宮本代表理事
それは、とてもうれしいですね。フットサルは対戦しないといけないので、まずはチーム編成します(笑)。

三澤副社長
ありがとうございます(笑)。

宮本代表理事
すでに実務上でもご相談しているものがいくつかありますが、こちらも選手を育てるところで必要な記録やデータ、映像を残すための枠組みを相談できるとコーチたちが盛り上がっています。

―実際に具体的な話が進んでいるんですね。

宮本代表理事
そうですね。アカデミーの場合、ITの活用を一緒に考えたり、実行したりしてくれるパートナーはなかなかいません。どのクラブもソフトを買ってきて映像だけ、記録だけ、会員管理だけという形で使うことが多いんですね。ですが、我々は全体の情報をまとめたい。社内ではすでに名前もできていてCIAをもじって、マリノスCIA局と呼んでいます(笑)。情報が勝負なので情報局をつくること。その実用化をコーチやエンジニアのみなさんと話をさせてもらっているような状況です。加えて、そうしたデータの収集などをビジネス化していけないかということも考えていました。横浜F・マリノスが培ってきたノウハウを詰め込んで、僕らが欲しいと思うものに仕上げる。そういう相談もできたらと考えているんです。

三澤副社長
それはぜひ実現していきたいですね。

宮本代表理事
今回は、そういうことも含めてやりとりできるパートナーができた。それが一番大きいですね。選手を育てていくプロフェッショナルとして、トップアスリートを育てるための機能の部分をDX推進パートナーとしてご一緒すると同時に、お互いにとってプラスになるようなビジネスの仕組みをつくっていく。そうしたステップに進んで行こうと思います。

三澤副社長
弊社の強みは、お客様の要望を実現していくところにあります。オーダーメイドでつくれる技術者がいますので、今お話を聞いていても、実現可能だろうなと感じました。それに、現在も新規事業や新サービスに取り組んでいますが、使っていただくユーザーさんやお客様がどういうものを望んでいるのかは、現場にしかわかりません。今回、現場の声を聞きながら一緒にサービスをつくれるので、非常にワクワクしています。

―アカデミーの選手育成にITを活用しようと考えたきっかけなどはありますか?

宮本代表理事
だいぶ以前になりますが、小泉(純一郎)首相時代に、東京の西が丘に国立スポーツ科学センター(JISS)ができました(平成13年4月に発足)。そこでは、日本代表やオリンピックに出るような選手たちの様々なデータを持っていますが、日本代表クラスのレベルにならないとデータを取ることができません。でも我々がほしいのは、オリンピック代表になれるかどうかわからない子ども時代からのデータです。それがあれば、どういうふうにすればオリンピックや日本を代表する選手になれるか、データの蓄積から基づいて育てていくことができます。Jクラブはアカデミーを持っているので、子ども時代のデータを取れるのは強みですし、トップアスリートを小学生の頃から育ててきました。その上で、データでしっかりと取っていければ、いろいろな可能性が出てきます。そうした知見を得て、積み上げていきたい。そのためにもデータを取って、整理することが必要でITに関するパートナーが必要でした。データをしっかり扱い、活用していくというデータデザインというものがあると知ったこともきっかけですね。

三澤副社長
実際にも学会などでは遺伝子レベルで仮説を立てるという研究は進んでいると聞きます。人間の成長のスピードは個々に違っていて、それぞれに合わせた指導や教育、鍛錬。それを上手く掛け合わせると、トップレベルがさらに上がるのではないかと感じています。そうした学術と仮説の部分が、現場とITが組み合わさることでよりリアルに実現していけば、未来は明るいのではないかと思います。

宮本代表理事
スポーツとITは一見離れているようで、すごく近い関係なんですよ。選手がトップアスリートになっていくためにも、科学的なデータや研究、計測して分析することは大切です。その上で導き出されたものを現場に導入していくプロセスは必要ですし、それを繰り返していくと、選手はもっと伸びていく。偶然で育てるのではなく、必然を増やしていくことで、チームが強くなって世界で戦える。そういう積み上げが非常に重要だと思います。

三澤副社長
私たちも企業様といろいろな取り組みを行いますが、エンターテイメント業界とのつながりの中で感じるのは、ファンと主催者をつなぐ部分をITで活性化させたいという思いです。その枠組みは、スポーツも一緒なのかなと感じていますし、これからどんどん拡大していきたい分野でもあります。ただ実はサッカーの育成年代の現場は、まだ見たことがなくて。私の出身高校がサッカーも非常に強い強豪校で全国制覇をしているのですが、現場の感覚はその頃のイメージが残っているくらいです。

宮本代表理事
どのチームですか?

三澤副社長
東福岡高校です。私はラグビー部にいましたが、サッカー部は一つ下の代が高校3冠を成し遂げたチームで、練習内容や雰囲気も目の当たりにしてきました。

宮本代表理事
ラグビー部とサッカー部は練習を真横でやっていますよね。

三澤副社長
はい。一面を半分に分けて当時はやっていました。なので、日本の強豪校のイメージはなんとなく分かる部分がありますが、おそらくJクラブのアカデミーは全然違うと思いますので、ぜひ、見に行かせてもらいたいですね。そこで感じることや見えてくる解決策なども出てくると思います。

 

■時代の変化に合わせてスポーツクラブにもデジタル化の導入を

―実際の取り組みが描かれる中で、お二人が考えるDX推進とはどのようなものか、あらためて教えてください。

三澤副社長
クラブとファン・サポーターを直接つなぐのはSNSなどでもできますが、実際にファン・サポーターが体験するところにつなげる橋渡しを実現できたら、非常にうれしいですね。また地域とクラブをつなげていくことも同様で、そういうサービスを提供していきたいと考えています。

宮本代表理事
ここまでトップアスリートを育てる話をしてきましたが、スポーツクラブとしても、しっかりとしたサービスを提供したいという考えもあります。例えば個人情報の問題や決済に関すること。実は、いまだにスポーツクラブはアナログでのやり取りも多く、そういう面でも、きちんとITを活用していきたいですね。それから、出欠。それはスポーツクラブではすごく重要ですが、こちらも紙などの使用です。そこをIT化しながら、例えば子どもたちがスクールに来たら「来ましたよ」と保護者に連絡が入るような仕組みも導入したい。今は、何が起きてもおかしくない時代です。子どもたちの安全を守るようなリスクマネジメントの観点からも、そういう部分をきちんとする。そういうことを求められている時代なで、しっかりやらないといけないという思いもありますね。

三澤副社長
お話を聞いていても、こうすればできるというイメージはわきます。出欠管理が簡単にできたり、個人情報を厳重に扱いながら必要なときに呼び出せたりする仕組みは可能ですよ。

宮本代表理事
見守りサービスのようなことができれば、保護者も安心。シンプルですけど、世の中に存在するサービスをスポーツクラブも展開しないといけないことを、本当に感じますね。

三澤副社長
私立の小学校や幼稚園、学習塾は実際に取り入れているようなところもあります。ただ、学校などは主に室内での利用なので、屋外でも使えるように、我々がカスタマイズをできればいいですね。

宮本代表理事
そういうところはぜひ力をお借りしたい。もちろん、選手を育てるための情報を集めることも取り組みたいですし、やりたいことは山ほどあります(苦笑)。実はアカデミー年代の練習でもGPSを使っていますが、GPSから得るデータは分析しきれないほど、膨大なデータ量なんです。そこはプロの力を借りないと。僕たちは子どもたちに、得た情報のアウトプットをしていくことが本業ですしね。そこに加えてビジネスにしたい。収益化することで、GPSも新たに購入できますから(笑)。

―収益化をすることで、それを子どもたちに還元するイメージもあるのですね。

宮本代表理事
そうですね。例えばですが、練習前に牛乳一本飲ませるかどうか。10年間、子どもを育てていくとして、毎日、牛乳を飲ませたら身体は丈夫になります。でも、サポートがなく、スナック菓子などを食べてしまうと身体ができない。そうした部分にも投資したいという思いはありますよ。

三澤副社長
ビジネス化のお話も、イメージができつつあります。新しいチャレンジですが、積極的に取り組みながら我々のリソースを使って行きたいですね。ど真ん中にしっかりとした考えがあれば、ITを導入していくのは問題ないですし、構造としては難しくはないと思います。何よりスポーツという夢のあるステージでご一緒できることで、社員も非常にモチベーション高くやってくれる。それも含めて楽しみが大きいですね。

宮本代表理事
要求は高いですが、コーチたちからも『やりたい、やりたい』という声が大きいですよ。

三澤副社長
弊社も同じで、開発本部長からも『こういうことをやってみたいと長年思っていた』と聞いていて、つくることに喜びを感じながら進めている状況なんですよ。

―では改めて、スポーツとITが手を取り合っていく上で、どんな選手を輩出していきたいですか?

宮本代表理事
感謝と個性を持っている選手かな。少々枠にハマっていなくても個性があるのは魅力的ですし、一方で、競技には真剣に取り組んでなければいけません。プロになるということは子どもたちの夢にならなきゃいけないので、みんなの模範とする行動ができることも重要ですよね。多少破天荒でもいいけど、マナーはしっかりしていて、他人を思いやれること。そして、感謝できること。そうすると、プロなった時にお金を払ってくれるお客様に対して何かを返すマインドが備わるので、日々モチベーションを高めていくことができるんですよね。

三澤副社長
全く同感ですね。ビジネスの世界でも同じですが、最後は人格。人間性ですね。ここがしっかりしていないと、ある一定レベルで止まってしまうと思うんです。心構えや取り組み方。そういうものを子どもたちに届けることをIT利用で実現できると非常にうれしいですね。

宮本代表理事
その上で、いま取り組んでいるものは実現していきたいですよね。

三澤副社長
そうですね。『世の中のためになるサービスを』という思いがある中で、様々な取り組みをしていますが、最近はAIも取り組み始めているんです。それも活用できたら面白いかもしれません。

宮本代表理事
AIを活用すると、個人やチームの傾向が見えてきます。チームや個人の強みや弱みを知ることができれば、いずれ勝負の世界に影響するかもしれないですよ(笑)。

三澤副社長
膨大なデータと判断が合わされば、分析に使えますし、もしかしたら本当に勝負に左右するようなところにたどり着くかもしれませんね(笑)。

宮本代表理事
本当にいろいろな意味で、可能性を感じることができるパートナーシップです。これからもよろしくお願いします。

三澤副社長
こちらこそ、よろしくお願いします。

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